オムニチャネル「最新成功事例」から読み解く「勝つシステム設計」とは?

2021年6月17日

オムニチャネルが注目される背景

リアルとネットの境界線を取り払う試みとして、実店舗やECサイト、カタログなどの販売チャネルを統合し、顧客があらゆる経路から商品を購買できるようにするオムニチャネル戦略(Omni-Channel Retailing)。

その名称は、すべてを意味する「オムニ」と商品・サービスの流通経路「チャネル」との組み合わせに由来している。

戦略的に売り手と買い手のあらゆるチャネルを繋ぐことにより、ショッピング体験の質を向上させることで顧客の囲い込みを行うオムニチャネルは、いまや小売業界で欠かせない施策となった。

オムニチャネルの誕生は2011年。アメリカの老舗百貨店として知られるメイシーズ(Macy's)が年次報告書で「オムニチャネル化宣言」を行ったことから始まる。

1990年代後半からのネットショッピングの浸透に取り残され、経営不振が続いていた同社では、実店舗が「ネットで買うために商品を確認するための場所」として利用される「ショールーミング」が大きな課題となっていた。

そんな背景から、メイシーズが実施したのが「店舗とECの在庫の一元化」。ECサイト上に各店舗の在庫状況を表示し、顧客が商品を受け取れる場所の選択肢に実店舗を加えたほか、ECサイトで購入した商品の返品も実店舗で受け付ける仕組みを構築した。

さらに店舗にチェックインすることでクーポンが配信されるスマートフォンアプリ「Macy's APP」や、実店舗でプロのスタイリストからコーディネートが受けられる無料サービス「My Stylist」をウェブ上で予約できる取り組みを行った。

こうしてネットとリアルを統合する形で顧客の囲い込みを行い、翌年には約40%の売上回復を果たしている。

メイシーズによるオムニチャネル化宣言から10年を経た現在。年々加速する消費者行動の変化に対応した施策を各国の企業が実施し、成功事例が生まれている。

成功事例

ウォルマート

ネットとリアルの融合により快進撃を続けているのが、アメリカ・アーカンソー州に本部を置き、世界最大の小売企業として知られるウォルマート(Walmart)。

1969年の創業以来、次々と郊外に大型店を出店するドミナント戦略とサプライチェーンの効率化、薄利多売によって、巨大企業に成長した同社だが、アマゾンに代表されるEC企業の台頭により大幅に顧客を奪われる事態に陥っていた。

こうした状況に危機感を抱いたウォルマートは2010年代前半からオムニチャネル化を促進。「半径10マイル以内に9割のアメリカ国民を捉えている」ともいわれる店舗網を活かして、顧客満足度の向上に注力することで既存店の売上を伸ばす方針に転換した。

とりわけ功を奏したのが、オンラインで注文した食品を店舗から顧客の自宅に届ける「オンライン・グローサリー・デリバリー」と、ECサイトで購入した商品を実店舗の駐車場で受け取ることのできる「オンライン・グローサリー・ピックアップ」。店舗の業績が息を吹き返しただけでなく、オンライン販売でもアマゾンとの差を縮める好調ぶりを見せている。

そんなウォルマートが近年、力を入れているのが人工知能。スタートアップを積極的に買収し、自社のECサイトにおけるレコメンド機能の強化を進めている。

セブン&アイ・ホールディングス

日本国内における最大規模の取り組みがセブン&アイ・ホールディングスが実施する「Omni7」。

単一のECサイトとして機能する「Omni7」上に、グループ企業のECサイト「セブンネットショッピング」「西武・そごうのe.デパート」「イトーヨーカドー ネット通販」「アカチャンホンポ ネット通販」「ロフトネットストア」が参加。購入したすべての商品を任意のセブン‐イレブン店舗で受け取ることができる。  また、それぞれの企業の実店舗での買い物でも共通のマイルが貯まる「セブンマイルプログラム」を導入し、実店舗の顧客囲い込みを図っている。

無印良品

良品計画が展開する無印良品では自社アプリ「MUJI Passport」を入り口として、EC、実店舗の双方で顧客の満足度を向上する試みが。

GPS情報を用いて実店舗でチェックインすることで、ネットストアでも使用可能なマイルが獲得できる同アプリ。顧客にとっての「来店の動機づけ」として機能している。

さらに店舗の近隣に住む顧客に日替わり弁当や野菜などを届ける「MUJI delivery」もアプリで実現。「MUJI Passport」を通じ、顧客との接点の最大化を図っている。

ニトリ

近年、徒歩での来店比率が高い都市型店舗の出店に注力するインテリア小売業大手のニトリでは「ショールーミング」を推奨する施策を行っている。

これは店舗内の商品に添えられたバーコードをニトリアプリから顧客が読み込むことで買い物リストが作成される「手ぶら de ショッピング」というもの。顧客の利便性に加え、店頭在庫の少ない都市型店舗の弱点を補う取り組みとなっている。

TSUTAYA

カルチュア・コンビニエンス・クラブが展開するTSUTAYAでオムニチャネル化の柱となっているのが「TSUTAYAアプリ」。

近隣店舗の在庫情報が確認できるほか、2020年11月からはアプリ内での支払いも可能に。顧客の購買・レンタル履歴のデータから嗜好に応じた映像ソフトや書籍を通知するレコメンド機能もアップデートごとに強化されている。

丸善ジュンク堂書店

リアル店舗としての強みを活かしたオムニチャネル化に取り組んでいるのが丸善ジュンク堂書店。

ジュンク堂書店池袋本店の蔵書数が200万冊に及ぶなど「日本一の在庫を抱える書店」として知られる同社では、顧客がオンラインで注文した書籍を実店舗の棚でも探すことで、出版社にも在庫のない絶版本まで提供。依然として「店舗受け取りサービス」のニーズも強く、アマゾンとの差別化に成功している。

ユニークな取り組み

オムニチャネルの成熟にともないユニークな取り組みも生まれている。日本国内で展開しているグローバルファッションブランドでは「色・パターン・配置」を選択することで「オリジナルのポロシャツ」を顧客自らがデザインし、購入することが可能に。これまでにない新たなショッピング体験を提供している。


「失敗要因」は何か?

各企業でオムニチャネル化が推進されるなか「失敗要因」のパターンも浮き彫りになってきた。

その最たるものが「消費者目線の不足」。前出のメイシーズは2011年に始めたオムニチャネル戦略により売上を大幅に回復し、その後もEC事業は成長しているものの、店舗売上は次第に減少。同社が想定していた以上に顧客のオンライン購買指向は強く、2016年には大規模な店舗閉鎖を余儀なくされている。

また、社内での「意識統一の欠如」も失敗要因として挙げられる。ある小売チェーン店の関係者によれば、同社ではオムニチャネル化の過程で「実店舗チームとECチームの間で業績を巡る摩擦が生じてしまった」のだという。社内での評価システムの最適化は必須条件だと言えるだろう。

 今年で誕生から10年目のオムニチャネル。試行錯誤を経て、様々な知見が蓄積されている。